←come-in-sight / 家の不具合と未病

 深夜3時、暖房を点けながら週末に控える展示にむけた制作の真っ只中、突然部屋が真っ暗になった。ブレーカーが落ちたのだ。
 二階にいた私はスマートフォンの懐中電灯をつけて、注意深く部屋を通り抜け、階段を降りて1階の玄関に向かった。靴箱をよじ登って機械を照らすと、いつもと様子が違っていた。冬の季節、実家でエアコンやトースターやドライヤーをいっぺんに使うとよくブレーカーが落ち、そのたびに落ちた部屋のブレーカーを上げて元にもどしていたはずなのだが、このブレーカーはなんだか真ん中のバーだけが下がって、黄色いボタンが突出している。いつものようにやってみても電気はつかない。不思議に思って手持ちのスマートフォンで調べてみると、どうやら電気の使いすぎによるものではなく、漏電のために落ちているものらしかった。
 たしかにこの家は古く、怪しい配線箇所もある。最近買った暖房器具とコンセントの組み合わせが悪かったのだろうと思い、操作盤のレバーを上げて、別の部屋のコンセントを利用してその日は朝まで作業した。翌日、仕事から家に帰ってくると電気がつかない。またブレーカーが落ちていた。日中に特に家電を運転させていないにもかかわらず停電するなんておかしい。翌朝、電気安全協会の人を呼んでみてもらったが、ブレーカー自体に異変はなく、電気の流れも正常と言われた。その夜、友人から持病の腰痛が悪化したのでかかりつけの整体に行ってくるから電話する予定が遅くなると連絡があった。痛みの予兆はあったのに放って酷使してしまったのが原因だと反省していた。それを聞いて私はこの2日間で落ちた電気のことと、数ヶ月前にあった雨漏りのことを思った。梅雨の時期に1階の廊下が雨漏りして、大家に電話するのも面倒なのでしばらく放っておいてみたが今年の雨はよく降ったため、廊下がどんどん水浸しになり、なぜか仏間の壁にも雨が染み出していた。観念して修理(とまではいかないほどのクオリティだったが)してもらい、一応雨漏りは止まった。人のことを言える立場ではないがこの家の大家は割といい加減なところがあるので、築70年の古い家で賃貸なのにあんまり手入れしていない気配がある。前の住人も多分あまり気にならなかったか面倒だったかで、家のどこかがおかしくなっても適当にやり過ごしていただろうことが想像に難くない。
 かくいう私も慢性的な痛みや不調を抱えているその一人だ。普段は病院に行くほどでもなく、調子のいい時は忘れているくらいなのだが、放っておくとどこかで弾ける。それを知っていてもどうしようもない痛みがでるギリギリのところまで酷使しては、どうにかして耐え抜く。そうして体が動かなくなったり何か明らかな警告が出た時に病院へ行ってはじめておのれの怠慢さを猛省するのだった。
 また電気が落ちる。業者を呼ぶのが面倒だ。大家に連絡するのもおっくうだ。健康的な食事を作る気力がない。運動習慣を何度挫折したことだろう。とりあえず洗面所のボイラーのコンセントが外れかけて埃も積もってとても怪しいから、ひとまず掃除をして、プラグを挿し直して、仕事にむかった。


《家の不具合と未病 – NOV.25.THU.2020》