濡れた袖が本の貢にもたれてはじを濡らした それは1枚の紙の話ではなくて4枚の奥を貫いた そのことが私には天啓のようなものだった 油で染めたかとぎくっとしたが水だとわかって安堵した しかしいつまで経っても乾かない その部分だけが「私は濡らされた」と主張しつづけるものだから 私は本が読み進められない 知るべきは狂気についてではなくその染みの方である
あれは少し高い位置の花の先にとまり、可憐に蜜を吸っては舞う健気な薫りを漂わせる存在だと、人は勘違いしている。私の目の前にいる一羽の蝶は地べたを脚で一歩ずつ這っている。花もない場所で夢中になって向かっている。羽はぱた、ぱたと開閉する。読みかけの本が視界の手前ではためく。位置に身体を澄ませても、奥行きとは姿を捉われない。規則性のなかに曖昧さを差し込んで掴ませない。私はなにものなのかを知らない。きみの底をたたくと意外な音がすることを知らない。力を込めて土に差し込まれる胴部の先に命の続きがある
戸を明けると境界だった
彼は誰時の一瞬のまどろみが
美しさを捉えたいと
拾いにもどったら
その8秒で失った
自由なんてものは
教えられた